Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「ルドリア姫、お辛いお立場でしょうが、どうかラシェル殿下をお願いいたします」
使者はまっすぐにエルマを見て、言った。
「我らの王はラシェル殿下のほかにはありえません。
リヒター王子もそれを認めておられる。
勝手にリヒター王子をかつぐ者どもには、どうかお気をつけください。
そして余力がございますれば、殿下と王子をどうか見守ってください」
真剣な顔で言う使者に、ラシェルは苦笑した。
「おい、女に守られるほどおまえの王は弱いと言いたいのか?」
「とんでもございません」そう言って、使者は笑った。
「ただ、殿下も王子も他を思うあまりにご自分を顧みられないことがございますので」
違いない、と頷いたエルマを、ラシェルが軽く睨みつける。
それを無視して、エルマは使者に向き直った。
「あなたが言ったこと、約束しよう。ラシェルとリヒターを守る。必ず」
エルマの言葉に、使者は安心したように笑って、「なんとも心強い妃をもらわれましたな」とラシェルを茶化す。
それに対しラシェルは軽いげんこつを使者に食らわせ、「おれをからかう元気があるなら、心配はいらないな」と肩をすくめる。
とても王子と臣下の関係とは思えない気安さに驚きながら、しかしエルマは、ラシェルにはそれがよく似合うと思えた。
まぶしく暖かく、万人を照らす太陽のような王に、彼ならばなれるだろうと。
そう、思った。