Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「どうして川だと?」ラグが訊いた。
「病で倒れた領民たちに、今日話を聞きに行ったときに思ったが、病にかかったのはほとんどが大人の男――女もいるが、やはり大人が多い」
「子供もいただろう」
ラシェルが言った。
エルマはそれに頷き返し、「だが、」と続ける。
「まだ働けないような幼い子供は病にかかっていなかった。
病にかかったのは、年齢層から見て、おそらく皆ある程度仕事をしている者だ。
それも、ここは農村だ。
おそらくは畑仕事だろうな」
その言葉に、ラシェルの目がスッと細められた。
「なるほど。川の水に毒が溶けている。畑仕事をする者が、仕事の合間にそうと知らずに川の水を飲む。――なるほど、ありそうな話だ」
「ああ」と、エルマは頷く。
「畑仕事に関わらない女子供は安全な井戸水を飲むが、畑で働く者たちは近くの川ですまそうとする」
「だけど、誰が川に毒を入れたの?」
そう訊いたのはメオラだ。
「それに、川の水に毒が溶けているのなら、どうしてこの屋敷で出された水を飲んじゃいけないの?」
「それもそうだね」と、ラグが頷いた。
「領主の館の井戸もあぶないと思ってるのかい?」
領主の館の裏手には領主用の井戸がある。
そこにも毒が入っているのか、と尋ねたラグだが。
「それは、わからない」と、エルマは首を振った。