Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「ねえ、今思ったんだけど、あなたって普段は上品な話し方をするけど、たまにそれが崩れるわよね」
「崩れる?」
「ええ。庶民っぽくなるというか……今さっきも、情けねえな、って」
違和感を覚えたのだ。
ラシェルならば「情けないな」と言いそうなものなのに、と。
「ああ、」ラシェルは苦笑した。「つい、癖で」
「癖?」
「ああ。ここだけの話だが、幼い頃によく城を抜け出して城下に下りていたんだ。庶民のふりをしてな」
へえ、と、メオラは目を丸くする。すこし意外だった。
「どうして、そんなことを?」
「国を見てみたかったから」
と、ラシェルは答える。
「城の中だけがおれの国じゃない。
おれの守るべき国は、城の外に広がってるんだ。
自分が守るべき国を、自分の足で歩いて、自分の目で見ておきたかった。
この国に足りないものは何か、おれがするべきことは何か、そういうのは、城の中にこもっていてもわからない」
そう語るラシェルの横顔を、メオラはそっと見上げる。
どこか遠く、地平の彼方を見やるようなラシェルの眼差しに、なぜだかすこし、胸が締めつけられた。