Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
とまあ、立派なことを言ってみたが。
と、ラシェルは続ける。
「やはり『好奇心』というのが大きかったな。
今では国の実情をよく見るためだと思っているが、幼い頃はそんなことを考えてはいなかっただろう」
「……ってことは、今でもときどき城を抜け出しているのね」
「内緒だぞ。とくにレガロには」
そう言って、ラシェルはいたずらっぽく笑う。
ラシェルは笑うと王子としての風格がなくなって、ただの青年のように見えるが、そっちのほうがいいな、とメオラは思った。
もっとそういう顔をすればいいのに、と。
「あなたはいい王になるわね」
そうつぶやくと、ラシェルは聞こえなかったらしく、わずかに首を傾げて「ん?」と訊き返す。
それに「なんでもない」と首を横に振って、メオラは言った。
「ねえ、最初に謁見の間でわたしやエルマに会ったときのあの態度は、芝居だったの?」
嫌な王子だと思ったのだ。高慢で嫌味で、礼儀知らずな王子だと。
だけどラシェルを知っていくにつれ、それが決して彼の本質ではないとわかってきた。