Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「ああ、イロに言われたんだ。
おれには威厳が足りないと。
だからできる限りえらそうにしてみたんだが、……慣れないことをしてはいけないな。
悪ふざけが過ぎて、メオラにはえらく嫌われた」
参った参った、と苦笑するラシェルを、メオラは不覚にも、すこし可愛いと思ってしまう。
「そうね」だから、それをごまかすように顔をプイと背けた。
「ほんっとに嫌なヤツだと思っていたわ」
「思っていた、ということは、今はそう思っていないという意味でとって構わないか?」
ニッと笑ってみせるラシェルに、メオラはため息をついた。
「前向きでけっこうなことね」
「だろう。おれの唯一の取り柄なんだ」
「未来の王様の唯一の取り柄がそれでいいのかしら」
「王が無能でも、おれは臣下と弟に恵まれているから」
「だったら、優秀な弟が王位についたらいいんじゃない?」
「おれはそれでも構わないが、なにしろ人望が厚くてな。周りがほうっておいてくれない」
しれっとそんなことを言うラシェルに、メオラは苦笑した。
ああ言えばこう言う。どうやらラシェルには勝てないらしい。
まったくもう、と怒った顔を作りながら、それでもメオラは、今の時間をすこし楽しいと思っていた。