Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
もぞり、と、ラグは居心地悪そうに身じろぎをする。
カームに呼ばれたから黙って聞いていたが、この話、果たしてエルマの了承なしに聞いてしまってよかったのだろうか。
遠くで、ほう、と鳥の鳴く声がした。
ランプの炎が揺れて、エルマの顔に影を作る。
「わたし……」
ふいに、エルマが呟いた。
そしてパッと立ち上がると、どこか困ったような笑みをラグに向けた。
「なんか、びっくりしたな。……疲れたし、部屋に戻るよ」
そう言って、ラグの返事も待たずに部屋を出て行こうとする。
ラグは思わず立ち上がって、エルマの手首をつかんだ。
――呼び止めなければいけないような気が、した。
「ラグ……? どうしたんだ」
怪訝な顔で言うエルマの手首を握ったまま、ラグはまっすぐにエルマの赤い瞳を見つめる。
「ちょっと、ラグ?」
「エルマさ、」
慌てたようなエルマの言葉に被せて、ラグは言った。
「今、なんか変なことで悩んでるだろ」
「え……?」
「エルマはさ、笑うんだ。俺やメオラに心配かけないように笑って、たいていのことは一人で抱え込もうとする。
でも、エルマは自分で思ってるほど器用じゃないから、笑ってみたはいいけど、ちょっと困ったみたいな顔になる」