Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
エルマは何も言わずにラグを見上げた。
――その、痛みを堪えるような顔。
(先代がどうしてこの場に俺を呼んだのか、わかった)
つまりはエルマを慰める役をラグに押し付けたのだ。
若い娘の気持ちは自分にはわからないから後はよろしく、と。
「ラグは……故郷で一族が迫害されて、ヴェルフェリアに来たんだろ」
唐突に、エルマが言った。話が見えないながらも、ラグは頷く。
「そうだよ。俺の一族は――エルドラっていうんだけど、ウィオン王家に迫害されて滅んだ。俺もメオラも、その生き残り。……それが?」
そのことを、ラグはエルマに話したことがあった。
なぜ今さらそんなことを訊くのか、ラグにはわからない。
ラグが不思議そうに首を傾げると、エルマはくしゃりと顔を歪めた。
「なら、ウィオン王家を恨んでるか」
エルマのその言葉で、ラグはようやく話の行き先が見えた。
エルマがルドリアと姉妹だと言うのなら、エルマの母は、今は亡きルイーネ王妃サリアナ・アンバーだ。
そしてルドリアを産んですぐに亡くなったサリアナは、元はウィオンの王女――ラグの両親の仇とも言える、ウィオン王家の者だ。