Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
五人はそれきり何事もなかったかのように他愛もない話をしながら、川沿いに山路を登っていった。
やがて源流に近づき、だんだんと山路が険しくなり、川の流れも激しくなってきた頃。
「……あっ」
ふいに、メオラが声を上げた。
「どうした」とエルマが尋ねるのに応えず、メオラは川辺に駆け寄ってしゃがみ込んだ。
そうして川辺に生えていた草を指差した。
「この草……たしか、マリネラ草って名前だったと思うけど……」
「これがどうかしたのか」
メオラのそばに屈んで、ラシェルが言う。
「マリネラ草はよく、手術なんかのときに麻酔として使われる草なの。その根に毒を含んでいて、それを少量飲むと体が痺れて感覚が無くなる」
その言葉に、四人がハッとして顔を見合わせた。
「根の毒が土を伝って川の水に溶けたんでしょう。マリネラ毒は三日ほどマリネラを口にしなければ自然と体の中から消えていくはずよ。
……川の水を飲みさえしなければ、クランドル領の民はまたすぐに元気になるわ」
よかった、と微笑むメオラに、四人ともほっとしたように息を吐く。
「しかしまあ、よく知っているな」
ラシェルが感心したように言うと、メオラは照れくさそうに笑った。