Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
せめてイロに目通りを、とエルマが願い出ても、カリエンテ様はお忙しいと言って、まるで取り合ってくれない。
そして今に至るまで、エルマたちは仕方なく待ちぼうけを食らっている。
「ねえ、わたし、そろそろ腹が立ってきたわ」
いつも小鳥の鳴き声のように高い声を低くして、メオラが言う。
エルマは表情を変えなかったが、カルの首が力なく前に傾いだ。
「せめてイロに会えるといいんだけどな……」
商人と役人でごったがえした城門の中を覗き込みながら、エルマは言った。メオラは不服そうに唇を尖らせる。
「イロだって、さっきのお役人の似たようなものよ、きっと」
「さっき、ねえ……」
カルがぼやく。
確かに、二刻前は「さっき」とは言えないな、と、エルマは内心で頷いた。
長いこと暑い中で待ちぼうけを食らったものだがら、二人ともぐったりとして表情が険しくなっていた。
そろそろなんとかしないとな、とエルマは思いながら、城門の内側を睨みつけていた。
イロを探しているのだ。
役人などに相手をしてもらえるとは、エルマははなから思っていなかった。
イロを見つけたら商人に紛れて城内へ入り、話を聞いてもらえればいい。
イロのことはカームから聞いていた。
異国風の浅黒い男だ、見ればすぐにわかる、と。
しばらく城門の中を覗き込んでいたエルマは、役人たちに囲まれてこちらへ歩いてくる男を見つけた。
身なりが良く、肌が浅黒い。