Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
川の上流にあったマリネラ草のことはラグがギドに伝えた。
その話が村中に伝わるやいなや、すぐさま女中の一人がマリネラ草の根をつけた水の入った瓶を持って自白し、屋敷内でのマリネラ中毒の真相はあっさりと判明した。
王都から来た役人に家族を人質に取られて脅されたのだ、と泣きながら話したその女中は、今は屋敷内の一室にいる。
できるだけ寛大な処置をする、とギドは言っていた。
――ジラもそうだった。
屋敷に帰ってきたとき、王城のリヒターから手紙が届いていたのだ。
手紙には、エルマに毒を盛ったジラは弟を人質に取られていたのだということ、そしてその弟はリヒターが命じていち早くレガロの屋敷に保護したことが書かれていた。
(王妃……そこまでして国母になりたいの)
ジラやクランドル家の女中にラシェルを殺させて、そうまでして国母の座がほしいのか。
――もしかしたら、毒を塗った剣で自害したあの刺客の男も、ジラたちと同じように脅されていたのかもしれない。
メオラが、そう思ったときだ。
ぴく、と、ラシェルのまぶたが震えた。
ゆっくりと、その白いまぶたが開いていく。
金の瞳がぼんやりと宙を見て、その視線は虚空をさまようように動き、やがてメオラをとらえた。