Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「このまま王城に戻っても、きっと王妃がいろいろと策を弄してあなたを殺そうとする。だって、日が経つにつれてあなたの即位が近づくんだもの。王妃は焦っているはずよ」
そんな醜い争いからこのひとが逃れて、エルマやラグやカルと一緒に穏やかに暮らしていけたら、どんなに素敵だろう。
このひとが、ずっとそばで笑っていてくれたら。
――でもきっと、ラシェルは頷かない。
「それもいいかもしれない。……でも」
案の定最後につけられた「でも」に、メオラはただ静かに絶望する。
「リヒターをおいて、おれだけが王子の責任から逃れるわけにはいかないからな」
かすれた声で、しかし決然と言ったラシェルに、メオラは「そう言うと思った」と呟いて立ち上がった。
「わたし、お腹がすいたから夕食にするわ。……ラシェルはゆっくり休んで」
そう言い残して、メオラはラシェルの返事も聞かずに部屋を出て行く。
そして静かに扉を閉めると、そこにもたれて深く息を吐いた。
すぐにそこから立ち去りたかったのに、足に力が入らなくて歩き出せなかった。
しならくそこで突っ立っていると。