Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「……う…………っ」
小さな。
小さな嗚咽が、部屋の中から聞こえた。
とっさに息をつめて、メオラはじっと耳をすます。
抑えた嗚咽はそれでも漏れて、メオラの耳に小さく届く。
扉の向こうにいる彼の姿は見えないが、どうしてだか、メオラの脳裏には左の袖を強く握り締めた拳が浮かんだ。
(ごめんなさい、ラシェル)
守れなくて、ごめんなさい。
(わたしがもっと強かったら、きっと守れたのに。……エルマくらい、強かったら)
あのとき。刺客の男の隠し持ったナイフに、まっさきに気づいたのはエルマだった。
メオラがとっさにラシェルの腕を引いたのは、エルマの叫ぶのを聞いたからだ。
もしも、メオラがエルマより早く気づけていたら。
――せめて、エルマと同時に気づけていたら。
守れなかったくせに、ついさっきラシェルにそばで笑っていてほしいと望んだ自分が、急に恥ずかしくなった。
嗚咽が止むまでずっと、メオラはそこにじっと立っていた。