Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
そう言ったエルマに、二人の門衛はなぜだかそろって微妙な顔をした。
「……どうかしたんですか」
嫌な予感が胸をよぎる。
それを押しとどめて、エルマは門衛に尋ねた。
「いえ、それが……リヒター王子は今、牢におられまして……」
「牢? なぜ?」
あまりに予想外の言葉に、エルマは怪訝そうな顔になる。――そのとき。
「その説明は私からいたしましょう」
憮然としたふうの低い声がした。門の中から現れたのはイロだ。
「ルドリア姫、よくぞ無事で。さ、どうぞこちらへ」
愛想などかけらもない顔で言って、イロはエルマを先導して歩き出す。
その背中に、エルマは「待ってください」と声をかける。
「ここまで供をしてくれたクランドル侯の騎士たちも、この城で休ませてあげてください」
暗に「ラグたちも城に入れろ」というエルマの主張に、イロはとくにこだわりもなく頷いた。
その態度がさらにエルマの不安を掻き立てる。
「イロ殿、」イロの後をついて歩きながら、エルマは目の前の背中に声をかけた。
「リヒターが牢にって……」
なぜそんなことになったんだ、と、続けようとしたエルマの言葉を遮って、イロは言う。