Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「まずはラシェル殿下をお守りくださったこと、感謝します」
「……守れた、とは言えないと思うが」
「いえ、命があっただけ上々。なにしろ刺客は近衛隊長です。実力はフシルと同等か、それより上」
それを聞いて、エルマは目を見張った。「近衛隊長だって知ってたのか」
「はい、本人が自白しました。一部始終も彼から聞きましたよ。……毒を塗った剣で切られ、ラシェル殿下のお命が危うくなったこと。殿下の腕をあなたが切り落としたこと」
無意識のうちに痛ましげに顔を歪めていたエルマに、イロは労わるような目を向けて言う。
「自分を責める必要はありません。あなたの判断は正しかった。あなたが腕を切り落とさなければ殿下は死んでいた」
淡々と事実を述べる口調で労わるイロに、それでもエルマは心の底で納得できないでいた。
(だけど、今は他に訊くべきことがある)
言っても詮無いことをいつまでも気にしている余裕はない。
「それで、リヒターはどうしたんだ」
なぜ牢などにいるのか。自分たちのいない間に城で何があったのか。
「話してくれ。今すぐに」
問い詰めるエルマの眼を一瞬見返して、しかしすぐにその眼をそらすと、イロはもともと険しい顔をさらに険しくして言った。