Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
(いた)
エルマはイロの元へ駆け出そうとして、ふと、足を止めた。
そのエルマの様子を見て、カルもイロに気づいたようだ。
怪訝そうな顔をして、エルマの肩をたたく。
「なあ、エルマ……あれ、もしかして、こっちに来ていないか?」
もしかしなくてもそうだった。
イロはまっすぐエルマを見て、まっすぐエルマの方へ歩いてきていた。
エルマたちが動けないでいるうちに、イロはエルマの前で立ち止まると、その場に膝をついた。
あまりに予想外なイロの行動に、メオラもカルも、エルマも、呆然として言葉も出ない。
これまでアルの民を下賤と切り捨ててきたイロが、王族に対するものにも等しい礼を、エルマに見せたのだ。
エルマはなにか、ひやりとしたものが背中を撫でるのを感じた。
伏せた頭の下で、イロは言う。
「お待たせした、アルの長よ。どうか、一緒に来てもらいたい」
カルとメオラが、同時にさっとエルマを見た。
背後からエルマに刺さる二人の視線が、どうするのかと問うているのを、エルマは肌で感じた。
どうするもこうするも、もともとエルマはイロに会いに来たのだ。断る理由などない。
エルマは黙って頷いた。