Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「あなたもリーラ様も、ラシェル殿下も、そうは思わないでしょう。
しかし、リヒター王子のことをよく知らぬ殿下側の人間はそうはいきません。
彼らにとって、今回のことはリヒター王子を退ける格好の餌です。……おそらく、流刑は免れぬでしょう」
流刑。真っ白な顔でエルマはそう呟いた。
肩にかかったラシェルの体が急に重く感じた。
遠く、王城から遥か遠くに、リヒターが行ってしまう。
あれほど兄を敬愛している彼が、兄を殺そうとしたという汚名を着せられて、ここから遠くへ追いやられてしまう。
「……そんなこと、あっていいはずがない」
あの二人は、二人で一つなんだ。
いずれ王位を継ぐのが兄だろうが弟だろうが、二人で一人の「この国の王」なんだ。どちらが欠けてもいけない。
いいはずがない。
「わたしを、リヒターのところへ連れて行け」
呟きほどの小さな声で、しかし強い口調で言ったエルマの言葉に、イロはただ無言で頷き、歩きだした。