Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
ぐるぐる、と。黒くもやもやした塊が心の内を回り続ける。
ザラザラした不安が息苦しいまでに胸を満たして、自分がどうするべきなのか考えなくてはいけないのに、上手く頭が回らない。
リヒターを救いたくて、リヒターのところへ連れて行け、と言ったのはほとんど反射だった。
会えばなにか変わるのではないか、と――そんなわけはないのに。
――どうやったら、リヒターを救える。
力ずくで牢から出して逃がすのでは駄目だ。
リヒターが胸を張って、ラシェルの隣に立てるようにならなければ、意味がない。
重い沈黙の中。
「ここです」
ふいにイロの声が地下牢に響いて、全員が足を止めた。
そこは地下牢の最果て。
最も奥の、最も闇の深いところに、その牢はあった。
エルマは黙ったまま、手に持ったランプを目の前にかざす。
ぼんやりと浮かび上がった鉄柵の向こうで、よく知った顔が――笑っていた。
「やあ、エルマにイロ。カルとラグも来たんだね」
今日は来客が多いな、と、リヒターはまったくいつもと変わらない笑みを浮かべて言う。