Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「さっきまでフシルが来てたんだ。君たちが兄さんを連れて帰ってきたと伝えてくれた」
「……そうか」
「兄さんが右腕を失ったことも聞いた。……だから抵抗をしろと怒られたよ。兄さんが僕まで失わないようにって」
ははは、参ったな。そう言って笑うリヒターを見つめる一同の顔は暗い。
「リヒター、わたしはどうすればいい」
エルマはそっと、鉄柵を握った。固く冷たい鉄の感触は、エルマの体温を受け入れようとはしない。
「どうすれば、おまえをここから出すことができる? 何でもするから、教えてくれ」
してほしいことがあったら何でも言ってくれ。頼むから――。
悲痛な顔でそう言うエルマに、リヒターはあくまで笑顔のまま、「じゃあ、」と言う。
「君には、これから起こることを黙って見ていてほしい」
「……え?」
「僕が流刑になんてなれば、王妃は黙っていないだろう。絶対になにか仕掛けてくる。だから、この機会に布石を打つ」