Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「リヒター、なにを……」
「エルマ」
静かな、しかし強い声音で、エルマの名を呼ぶ。
リヒターはもう笑っていなかった。
「君に見届けてほしい。僕の――僕自身の選んだ道を」
リヒターのただならぬ雰囲気に、エルマだけでなく、その場にいた全員が言葉を失った。
その場が静まり返り、訪れた沈黙の中、エルマはようやく気がついた。
――地下を伝わる、かすかな音と振動に。
エルマに次いでカルが気づき、ラグが気づき、そうして最後にイロが、自分の来た道を振り返ってぽつりと呟く。
「……足音?」
それも複数だ。誰が来るのか身構える一同だが、リヒターは小さく笑って、「来た」と呟いた。
そうして余裕の表情で、
「君たち、新たな来客のために場所を開けてくれる?」
まるで宴かなにかの席を譲ってくれとでも言うような口ぶりで、一同をわきに退けさせた。
足音は遠くのランプの明かりと一緒に近づいてくる。
その明かりを見つめながら、リヒターは「エルマ」と、呟くように名を呼んだ。
「もう一つお願いがあるんだ」
「何だ?」