Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「これから先、僕に何があっても、自分を責めないでほしい」
「え……?」
リヒターの言葉になにか不穏なものを感じたエルマだが、それ以上訊くことはできなかった。
――近づいてくる明かりが揺れて、ランプを持つ女の顔が見えたのだ。
目鼻立ちのはっきりとした、美しい女だった。
その女によく似た顔を、エルマは二人、知っている。
リーラがもっと大人になれば、あるいはリヒターが女であれば、こんな顔だろう。
――その女が誰なのか、疑問に思うまでもなかった。
「――母上!」
リヒターが叫んで、鉄柵の間から手を伸ばす。
それを見た王妃は、「ああ、リヒター!」と、悲鳴のような声をあげて、リヒターの元へ駆け寄った。
「リヒター、かわいそうに! こんな暗くて狭いところに閉じ込められて……」
リヒターの手をとって、王妃は泣き崩れる。
「母上、これは兄上の陰謀です! どうか助けてください。僕は無実です!」
王妃の手を握って懇願するリヒターを、エルマは信じられない思いで見つめた。
カルもラグも、イロでさえも唖然としてリヒターを見る。