Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
王妃は「ええ、もちろんですとも」と言いながら、すぐ後ろに立つ従者に手を伸ばした。
「わたくしは、あなたをここから出すために来たのですから」
その手のひらに、従者がそっと何かを置く。
――それは銀色の鍵だった。
「王妃様、なにを……!」
血相を変えたイロに、王妃は「お黙りなさい!」と一喝した。
「宰相よ、あなたがどう考えているのかは、訊かなくともわかります。
でも、どちらにせよリヒターは無実でしょう。このままリヒターを閉じこめておくべき正当な理由があるのであれば仰いなさい」
当然、ない。王妃の言葉に間違いなどなかった。
エルマ達の思うように、今回のことが王妃の仕業であるとしても、そしてリヒターの言うようにラシェルの陰謀だとしても、どちらにせよリヒターに罪はない。
リヒターがここに閉じ込められている理由は一つ。
――ラシェル派が、今回のことをリヒターの罪としてしまいたいから。ただそれだけなのだ。
イロが押し黙ると、王妃は勝ち誇ったように笑ってリヒターの牢を開けた。