Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-



 そして、この世に未練を持たないように生きてきた。


――自分はいずれ、兄に殺されるだろう。そう、幼心に覚悟していたのだ。

兄が王となるためには、自分は邪魔でしかないのだから。



 だが、ラシェルはそうしなかった。



 彼は純粋にリヒターを弟と呼び、必要だと言った。

王となった彼の右腕になれ、と。



「あのときから、兄さんが唯一の光だったんだ」



 ラシェルの言葉の暖かさを、存在の大きさを知った、あのときから。



「それなのに、光がずいぶんと増えてしまった」



 エルマやカル、メオラの、純粋に互いを大切に思う心が、あまりにも眩しい。



――彼らに出会うまで、純粋な愛情などこの世にないと思っていた自分には。



「今、僕が兄さんを大切に思っているのは本当だけれど、最初は母への反発だったんだ。初めから、兄さん自身を大切に思っていたわけじゃない。兄さんも同じだ」


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