Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「……ラシェルも?」
「兄さんも、最初は僕自身を大切に思っていたわけじゃない。
兄さんは王になるから、自分以外はみんな国民だ。国民を大切にするのは王の義務だと、それが兄さんの信条だから」
だから彼はかつて、敵となるかもしれない弟に、あえて友好を示した。
――ああ、思えば僕は、無償で誰かに愛情をもらったことがあっただろうか。
「だから僕は、エルマや君やメオラが、羨ましかったんだろうね」
互いに互いを愛し合う彼らが。
リヒターが話し終えると、沈黙が部屋を包んだ。
気まずくもない、心地よくもない、そんな無色の沈黙の中、カルが小さく溜息をつく。
そして、「おまえなあ、」と、呆れたような声を上げた。
「じゃあなに、おまえは、おまえら兄弟をつなぐ情が本物じゃないって言いてえのか」
そう言ったカルの声音は、すこし怒っているようで、一方で寂しげでもあった。