Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「たしかに、最初は嘘かもしれねえよ。
おまえは母ちゃんに反発したくて、ラシェルを慕っているふりをしただけかもしれねえ。
ラシェルはすべての国民を愛する王を演じたくて、おまえに愛情を注ぐふりをしただけかもしれねえ」
けどな、と、言って、カルはにやりと笑う。
「嘘から始まったかもしれねえけど、今は本物だ。いつからかは知らねえけど、本物になったんだ。そうだろ?」
――うん、そうだね。
そう素直に思った。そんなことはわかっていた。
(僕は自分で思っているよりも、まだこの世に未練があるみたいだ)
もしかしたら、少しでも残しておきたかったのかもしれない。自分が何を思い生きてきたのか、その片鱗でも。
だから死の当日になって、カルにこんな話をしたのだろうか。
「君は、優しいね」
そう言ったリヒターに、カルは「やめろ、気色悪い」と間髪入れずに返す。