Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
そして、「さてと、」言いながら椅子から腰を上げた。
「俺は一応近衛兵なんでね、いろいろとやることがあるから行くわ」
「そうか、そうだね。最後に来てくれてありがとう、カル」
「だから気色悪いって。……あ、そうだ」
立ち去ろうとしたカルは、ふと足を止めて振り返った。
「おまえな、フシルのこと忘れんじゃねえよ」
「……え?」
聞き返したリヒターに、しかしカルはもう振り返らない。
扉の閉まる音に重ねて、リヒターは再び「え……?」と呟いた。
家臣の誰にも、――ラシェルにさえ見せたことのないような呆けた顔で閉まった扉を見つめながら、リヒターはしばらく考え込む。
それからいくらも経たないうちに。