Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
実際に自身の目で見てみて、なるほど快活で理知的な目をしているな、とエルマは思った。
「この者が、例の?」
ラシェルは開口一番、イロにそう尋ねた。
「はい」イロが頷く。
「そうか。……アルの長だったか、顔を上げろ」
エルマは言われた通りに伏せた顔を上げた。
そのエルマの顔を見て、ラシェルは「ほう、」と感心したように嘆息を漏らした。
「なるほど、よく似ている。……ほとんど本人じゃないか! ぜんぜん見分けがつかない」
ラシェルの言葉に、イロが「はい」と応じる。
状況が飲み込めないエルマに、ラシェルが「おれは第一王子ラシェルだ。アルの長、名は?」と尋ねた。
問われたエルマは居住まいを正して、頭を下げる。
「はい、わたしはアルの長、先代カームの養子、エルマと申します」
ラシェルは一つ頷いた。
「今日ここにおまえを呼んだのは、頼みたいことがあるからだ」
「は……、頼みたいこととは?」
エルマはかしこまって尋ねた。背後でメオラが唾を飲みこむ音が聞こえた。
そのとき、ラシェルがエルマのすぐ目の前に来たかと思うと、唐突にエルマの手を取って、言った。
「おれの妃になってほしい」