Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「……ああ」
溜息のような声を漏らして、リヒターは天井を仰いだ。
忘れるな、とは。
純粋に互いを愛している彼らを、羨ましいと言ったことに対して言っていたのだ。
――おまえだってもらっているだろう、と。
「そうだよね、……フシル、ごめん、そうだったよね……」
呟く声が震えた。鼻の奥がツンと痛んで、後から後から、頬を雫が流れ落ちる。
(僕だって、もらっていたんだ。ただ、それを僕が見ようとしなかっただけで)
そんなものが、自分に向けられるわけがないと。
そう決めつけて見ようとしなかったのは自分自身だった。
気付いていたくせに、気付かないふりをしていた。
――彼女は、あんなにまっすぐに慕ってくれていたのに。
ずっと、純粋な愛情を向けてくれていたのに。
「ごめんね、……フシル、ごめん……」
流れ落ちる涙をそのままに、リヒターはずっと、フシルの名を呼び続けた。