Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
ラシェルの寝顔を見つめながら、誰に言うでもなく、メオラは呟いた。
――今ごろ、エルマはとっくに処刑場に着いているだろう。
処刑はもう行われただろうか。リヒターは、どうなっただろう。
ぐるぐる、と、考えても仕方のないことが頭の中を回り続ける。
溜め息を一つついて、メオラは窓の外に目を遣った。
(わたし、どうしちゃったんだろう……)
メオラはわかっていた。エルマはラシェルを見ていてくれとメオラに言ったが、それは命令ではない。
メオラが嫌と言っても、エルマは怒ることもせずに他の者に頼んだだろう。
以前の自分なら、ここで素直にラシェルの元に残ったりはしなかった。
エルマに何と言われても、エルマについて行った。
メオラにとって何より大切なのは、唯一の肉親であるラグと恩人であるエルマだったはずなのに。
「……なんで、あなたのことを放っておけないのかな」
ラシェル、と、メオラは寝顔に呼びかける。
ラシェル。わたしやエルマをアルの民から遠ざけた人。
今エルマが辛い思いをしている元凶。