Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
是非を問うような視線に、エルマは迷わず首を縦に振る。
エルマは立ち上がってリヒターの元まで行こうとしたが、リヒターはそれを手で制した。
「そこでいいよ。……イロも戻りなよ」
イロを座席に戻るよう促して、リヒターは少し離れたエルマにも聞こえるように声を張り上げる。
「君には、たくさん迷惑をかけたね」
薄く微笑みながら言われた言葉に、どう返していいのかわからず、エルマは黙ったままだ。
リヒターはかまわず続ける。
「最期にもう一つ迷惑をかけることを許してほしい」
まあ、お礼も兼ねているんだけど。と、リヒターは苦笑した。
わけがわからず怪訝な顔をしたエルマに、リヒターはいっそう笑みを深くし――言った。
「君に、自由を返そう。――エルマ」
ざわ、と、会場に小さな不審が広がる。
エルマはもちろん、イロも、カルやフシルも、レガロも、一様に目を見張った。
――リヒターは、「エルマ」と呼んだのだ。大衆の面前で。