Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「リヒター、どうして……」
「皆の者、聞け!!」
愕然として呟いたエルマの言葉は、リヒターの怒鳴り声に掻き消された。
「そこにいる緑の髪の娘は、ルドリア姫ではない!」
イロの指示を受けた兵が慌ててリヒターを抑えにかかるが、いつの間にか手首を縛っていた縄を解いて両手が自由になったリヒターに返り討ちに遭う。
「本物のルドリア姫は行方不明! そこにいる者は全くの別人であり、よって此度の婚約は無効だ!!」
リヒターは最初に倒した兵から奪った剣で、次から次に抑えにかかってくる兵を倒していく。
流れるような剣さばきは、すべて見事に急所を避けていた。
罪人が突然剣を手に暴れ出したというのに、処刑場は混乱するどころかいっそう静まり返っていた。
その場にいる誰もが、本能で感じ取っていたのだ。
――リヒターは逃げるために暴れているわけではない、と。