Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「フシル……」
大丈夫なのか、と声をかけたカルに、哀しげな微笑みを返して、フシルはゆっくりと歩いていく。
そしてリヒターの前に立つと、二人は同時に剣を構えた。
「……手加減はいたしませんよ、王子」
「もちろん。殺す気でかかっておいで」
そんな、短い言葉を交わして。
次の瞬間、二人は剣をぶつけ合っていた。
キン、キン、と、高い音が処刑場に響く。
二人の実力はほぼ互角。
処刑場全体が固唾を飲んで見守る中、二振りの剣は鋭い音を立てながらぶつかり合う。
エルマはどちらに勝ってほしいのか自分でもわからないまま、祈るような気持ちで二人の戦いを見守っていた。
だから、背後から近づく足音に気づかなかった。