Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「エルマ」と呼ぶ声と共に突然肩に置かれた手の感触に、エルマは飛び上がりそうになるのをなんとかこらえて振り返り――その赤い眼を見開いた。
「ラシェル……!」
エルマの背後には、メオラに肩を支えられたラシェルが立っていた。
状況が状況だけに何も言えないでいるエルマに、「事情はメオラに聞いた」と、ラシェルは短く言う。
「誰であろうと王族殺しは死罪。これはたとえ王であっても曲げられない、この国の法だ」
低い声が並べる言葉に、エルマは黙って頷いた。
それは、この数日エルマが何度も聞かされた言葉だった。
王や王子の独断で法を変えることはできない。
だからといって秘密裏にリヒターを逃がそうとしても、当の本人がそれを望んでいないのだ。
「もう処刑を取り下げることはできない。――だから、見届けに来たんだ」
静かに言ったラシェルの目は、まっすぐにリヒターを見ている。