Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
処刑場には、剣どうしがぶつかり合う音だけが響いていた。
当初は互角に思えた二人だが、よく見るとフシルの息が上がってきている。
対してリヒターは、フシルの素早い突きを流れるような剣さばきで弾き返す。
このままではフシルが負ける。エルマがそう思った矢先。
フシルの剣を避けて身を翻したリヒターの視線が、エルマの方を向き――その目がラシェルの姿を捉えて大きく見開かれた。
リヒターの動きが鈍くなったその一瞬を、フシルは逃さなかった。
あ、と乾いた声でエルマが呟いたその瞬間。
フシルの剣が、――リヒターの腹を刺し貫いた。
沈黙がざわついた。広場全体の動揺が風となって一帯を揺るがせたような、そんな感覚に包まれる。
エルマもラシェルも、その場にいるすべての者が、言葉を失ってただ静かに目の前の光景を見ていた。
フシルは後から後から流れ落ちる涙をそのままに、忠誠を誓ったただ一人の主を刺した剣を、一気に引き抜く。