Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
臓腑を貫かれたのだろう。
リヒターは口から大量の血を吐いて、目の前のフシルに向かって倒れこむ。
血に染まった剣を投げ捨てて、フシルはリヒターの体を受け止め――そのまま地に崩れ落ちた。
新緑の髪を朱に染めて、リヒターの体を抱きとめたまま、フシルは座り込んでただ涙を流し続ける。
リヒターがそっと腕を持ち上げて、彼女の背に手を触れたのを、エルマは見た。
――まるで、抱きしめるように。
それもたった一瞬のこと。
リヒターの腕は、すぐにフシルの背から力なく滑り落ちていき、――そのまま二度と、動くことはなかった。
罪人の処刑というにはあまりに悲壮なその光景に、シュタインの民は何を思っただろうか。
シュタイン王国第二王子リヒター・セルディーク。享年十七歳。
兄と、兄の作る国を守ろうと誰よりも心を砕いた王子は、最期まで柔らかい笑みを浮かべながら、その短い生涯を閉じた。