Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
城下では市の撤収作業が行われていた。
商人たちは各々残った商品を集め、処分したり格安で売りさばいたりしている。
ひと月続いた夏市は、昨日が最終日だったのだ。
アルの出した店の売上は、上々だった。
一族の当面の暮らしには困らない程度の蓄えができたと、今朝城を出て一旦アルの様子を見に行ったラグから聞いた。
リヒターの葬儀は終わった。アルは大丈夫そうだ。
だが、まだやることが残っている。外を眺めながら、エルマは思う。
ここ五日の間に、王都を中心にシュタイン中にある噂が広まっていた。
――ルドリアは偽物だ、という噂だ。
リヒターが最後に明かした偽ルドリアについての話が、民の口を伝って尾ひれや憶測と共に国中に広がっている。
そもそも噂の真偽を疑う者ももちろんいるが、民のほとんどが信じてしまっている説が、なんとも厄介なのだ。
曰く、「偽のルドリアはルイーネが送り込んだ刺客であり、ルイーネ側の停戦協定破棄の意思表示である」と。