Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「リヒター王子は、……エルマ様に感謝していました」
フシルはどこか遠い眼差しで語る。
「無理にルドリアの偽者となることを強いたのに、逃げも隠れもせず堂々とその役目を背負い、その上でエルマ様としての意志でラシェル殿下を何度も助けてくださった。
今では利用して殺すつもりだった自分を恥じている、と」
だから、と、フシルは続ける。
「エルマ様に自由を返してやりたかった。けれど、すんなり返すわけにはいかなかった」
「なぜ?」
「もう二つ、望むことがあったからです。そのためには、エルマ様に自由を返す前に、もう一働きしてもらう他なかったんだと思います」
その望みとは何だろうか。エルマは眉根を寄せて考え込んだ。
一つはわかる。国の平和だ。
ルドリアの行方が分からないのにエルマを開放すれば、婚約による和平が解消される。そもそもそのためにエルマはルドリアを演じているのだ。
わからない、といった顔のエルマに、フシルが言う。
「一つは和平。それはおわかりのことと思います」