Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-



 そしてもう一つは、と、フシルは言いかけて、言葉を詰まらせた。



「……リヒター王子が、仰ったんですけど」



 すこし言いにくそうなフシルに、エルマが不思議そうな顔をする。



「リヒターが、なんて?」



 エルマが促すと、フシルは苦笑して、すっとエルマに近づく。そして。



「『あの二人、似合いじゃないか?』と」



 そう、小さな声で耳打ちした。



 誰と誰が、とは言わなかったが、エルマには自然とそれが誰のことか理解できた。



(……ラシェルと、メオラ)



 なるほどな、と、エルマは笑った。



「穏便に、和平はそのままで、ラシェルとルドリアとの婚約を破棄しろと言いたいわけだ」



 そんな無茶な――と、すこし前なら思っただろう。だが。



「……わかった。やってみる」



 エルマは苦笑して言った。


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