Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
リヒターを――心から慕う人を殺した痛みは、エルマには計り知れない。
あれからそれほど日も経っていないが、フシルは、今どう思っているのか。
問われたフシルは、笑って「はい」と答えた。
「王子は、最後に私に『ありがとう』と言ったんです。……だから、いいんです。私はそれだけで」
ありがとう、フシル。
泣き笑いのような表情でそう言った顔を、声を、体温を、きっとずっと覚えているだろう。
最後の言葉を、フシルに遺してくれた。
最愛の兄でも、恩人であるエルマでもなく、フシルに。
ずっと、誰よりも近くで見てきた。
隣には立てなかったけれど、彼を追いかけるのが好きだった。
そして――最後の最後に、振り向いてくれた。
それだけで、これからだって生きていける。
「そうか。……それは、よかった」
それじゃあ、そろそろ行こうか。
エルマが言って、リアに跨った。ラグも自分の馬に乗る。
「じゃあ、カル、フシル。ラシェルたちを頼んだ」