Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
すぐにその一房をつかまえて、フードに押し込む。
そして、誰か見ただろうかと辺りをきょろきょろと見渡して、――エルマは一人の男と目が合った。
(まずい)
嫌な汗が背中にじわりと浮かぶ。
その男は驚いたように目を見張って、エルマを見ていた。
ルドリアか、ルドリアの偽物。
今の状況で、どちらと思われてもまずいことになるのは明白だ。
――もし、騒がれでもしたら。
エルマとラグの焦りを知ってか知らずか、男はただエルマを見ていた。
そして、しばらくすると。
どこかふらふらとしたおぼつかない足取りで、男が一歩、エルマの方へ踏み出した。
「うわ、こっち来た」と、ラグが小さく呟く。
そして、どうする?と尋ねるようにエルマに目配せをした。
エルマはただ首を横に振った。
そこで逃げたら余計に目立つ。それに、男の様子が変だった。