Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-


 そんなメオラとエルマの胸の内の怒りを知ってか知らずか。



「見事だな」ラシェルは答えると、ニヤリと笑った。「その通りだ」



「だけど、肝心のルドリア姫は、今どちらにいらっしゃって、なぜ、影武者が必要なのです?」



 エルマが訊くと、


「おまえはどう考える?」


 にやにや笑って、ラシェルは逆に訊き返した。



 つくづくかんに障る王子だと、メオラは内心で毒付いた。


この辺でやめておいた方がいいだろうに、と。



 あいかわらず、エルマは淡々と考えられる可能性を列挙する。

その声は、いつもよりも低い。



「ご病気や怪我で人前に出られないか、何者かにかどわかされたか、ラシェル殿下との結婚をお厭いになって逃げ出したか、……シュタインの手違いでお亡くなりになったか」



 途端、イロが顔を真っ赤にして怒鳴った。


「なっ……無礼な!」


「無礼はどちらか」



 エルマが低い声で制する。

そしてそれまで溜めてきた苛立ちを吐き出すように、敬語も使わず一気にまくし立てた。



「頼みがあるというからこちらは真摯に話を聞こうとしていたのに、この仕打ち。

用件をもったいぶって言わず、わたしの民を貶して。

顔かたちは適役な『ルドリア姫の影武者候補』は、機転のほうはどの程度働くのか試したかったのかもしれないが、それにしたってもっと礼を欠かない方法は思いつかなかったのか。

それに、気高いシュタイン王子ともあろう者が、ずいぶんと卑怯なやり口を使うんだな」


「卑怯? どこがだ」


「気づいていないと思うのか?」



 ラシェルの問いに、エルマはせせら笑った。


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