Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「妹よ、信じてくれないか」
沈黙するエルマに、ディネロが言う。
「シュタインにいるはずのルドリアが偽物だと知ったとき、私も母上もすぐにおまえだとわかった。
だから、母上より先におまえを保護するためにこの街へ来たんだ。危害など決して加えない。必ず母上から守ってみせる。……だから」
まっすぐにエルマの目を見るディネロの瞳に、嘘の色は見られない。
信じてみてもいいかもしれない、と、エルマが思ったとき。
「なら、御者と馬車の馬をこの街に置いていってもらえますか」
唐突に、ラグが言った。
「ここにすぐ戻って来られるとも限らないから、この街に俺とエルマの馬を置いていくことはできない。
それにこの街に馬を置いてくるとしても、馬を管理する者が必要です。が、あいにく俺はエルマのそばを離れる気はない。
だから、代わりに俺とエルマの馬を馬車につけて、俺を御者にすればいい」