Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
大きく揺れながら馬車が止まると、蒼白になったディネロが立ち上がった。
「無礼な……! 何者だ!」
言って、馬車から飛び出そうとするディネロの首根っこを引っ張って、エルマは再び床に伏せた。
同時に、二人の頭上でドッと鈍い音がした。
前方から飛んできた矢が、御者台を通って刺さったのだ。
見ると、ラグの左腕に一筋の切り傷があった。
「ラグ、無事か」
「大丈夫。かすり傷」
短く答えたラグの右手には、短剣が握られていた。
エルマも馬車の中に立てかけていた短槍を構えた。
外の様子を伺おうと、エルマが御者台からそっと覗く。
そうして、エルマは驚きに目を見張った。
ディネロの馬車を囲んでいたのは、ルイーネ兵の制服を着た者たちだったのだ。
(なぜルイーネ兵がディネロの馬車を囲んでいるんだ……? 反乱でも起こす気か……?)