Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
率いているのは誰だろうか、と、エルマがさらに顔を出すと。
「見えたぞ! 緑の女だ!」
そんな怒声と共に、矢が飛んできた。
短槍の刃でそれを弾き落としながら、エルマはそんな瞬間ですら、敵の声に耳をすましていた。
あの女と連れの男、かなり腕が立つぞ。
ルドリア姫に化けた悪魔め!
なんとしてもディネロ陛下をお救いしろ!
「あいつら、狙いはエルマか」
低く言ったラグの声を耳聡く聞きつけて、ディネロは顔を上げた。
「本当か!? ならばおそらくは、母上の差し金だ。私が出て行って止めさせよう。二人はここで待っていてくれ」
「ちょっ、兄上……! 危険です!」
止めようとするエルマの手をすり抜けて、ディネロは馬車の外へ出て行った。
おそらくルイーネ兵は、ディネロがエルマに捕らえられているとでも思っていたのだろう。
単身出てきたディネロを見て、動揺したようにざわめいた。