Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「おまえたち、私が乗っていると知っての狼藉か! 今すぐに武装を解け。おまえたちが射ようとしたのは、私の大切な客人だぞ!」
ディネロの怒声に、ルイーネ兵は動揺しつつも各々弓矢や剣を仕舞う。
だが、エルマがホッとしたのも束の間。
「――何をしているのです。早く陛下を捕らえなさい」
女の声が響いた。
兵の壁の向こうから現れた、声の主は。
「……母上!」
「ディネロ陛下、母を許してください。でも、これも陛下を思うがため」
女は――ルイーネ国母であり、ディネロやエルマの母であるサリアナは、悲しげな色をその瞳に宿して言う。
「兵たちよ、ディネロ陛下を捕らえなさい! 陛下は今、悪魔に取り憑かれていますわ。早急に王宮へ連れ帰り、祈祷師に悪魔を祓ってもらわねばなりません」
サリアナの言葉に、ディネロは愕然として目を見開く。
何を言われたのか理解が追いつかないディネロに構わず、兵たちは戸惑いながらもディネロを拘束した。