Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
それを満足そうに見届けると、サリアナは今度はエルマのいる馬車の方を見た。
「悪魔よ、出て来なさい! わたくしの唯一無二の娘の姿をしていても、わたくしは惑わされません」
サリアナの合図により、兵たちが再び武器をかまえる。
「完全武装した状態で出て来いと言われて、出て行くやつがいるわけないだろう……」
ラグが呆れたように言うが、エルマは「いや、そうでもないぞ」と、ラグの言葉を否定した。
え、と、ラグがつぶやいたときにはもう遅い。
エルマは弓矢を構えて、御者台に乗り出した。
「動くな! 動けばこの矢を放つ!」
ほんの一瞬でサリアナに狙いを定め、エルマは怒鳴る。
「サリアナ王母殿下も、命が惜しければ動かないことです。あなたがピクリとでも動けば、この矢であなたを射殺します。わたしの弓矢の腕を舐めてかかりませんよう」
エルマの言葉がただの脅しか、それとも真実か。
それを判別することのできない兵たちに、エルマの言葉を無視することはできない。