Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
たったの一瞬で、空間がエルマのものになった。
「非礼をお許しください。サリアナ王母殿下……いえ、母上、」
「わたくしを母と呼ぶでない!」
「母上」
わめくサリアナを眼光だけで黙らせて、エルマは続けた。
「賭けをしましょう」
「賭け……? 悪魔の言いそうなことね」
「わたしが本当の悪魔かどうか、賭けましょう」
思いがけない一言に、サリアナも、ディネロも怪訝な顔をした。
「どういうつもりです?」
「その前に、ディネロ陛下に一つ確認しておきたいことがあります」
突然名前を出され、ディネロはますます怪訝な顔になる。
「何だ」
「詳しい話は後でしますが、これだけは今この場で答えてほしい。……ルイーネはどちらを望んでいるのですか? 戦か、和平か」
ディネロの答えは早かった。
「和平だ。決まっている。度重なる戦でルイーネの民は疲弊している。これ以上戦を続けて、たとえ勝ったとしても、失うものは得るものよりもはるかに大きいだろう」