Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-



「そのカーテンの後ろと、扉の外に数人の衛兵、それから窓の外に射手がいる。

国の民に明かせないような王城内の秘密を流民にバラして、そのまま生きて帰す気はさらさらないのだろう?」



 それを聞いて、メオラは震え上がった。

それが本当ならば、エルマはラシェルの「頼み」を承諾するしかなくなる。


――そんなの、もう頼みでもなんでもないではないか。



 だが、ラシェルは不思議そうな顔をして、「衛兵? 何のことだ?」と首を傾げた。



「しらばっくれる気か」


「いや、待て。おれは本当に知らない。外に衛兵がいるのか?」


 予想外の反応に、エルマもメオラも困惑していると、それまで黙っていたイロが声を上げた。



「兵を手配したのは、私です」


 全員の視線がイロに集まる。

ラシェルが「どういうことだ」と声を上げた。



 それに答えたのはエルマだ。心底蔑むような目で、イロを見つめている。



「わたしがおまえたちの頼み事を聞くならそれで良し、聞かぬなら脅してでも聞かせる。

そしてわたしが逃げれば、得た情報を外に漏らされる前に殺す。そういうことだろう?」



 そうなのか、と訊きたげに、ラシェルはイロを見る。

イロはあっさりと頷いた。


「ちなみに、」エルマがさらに言い募る。

「わたしが大人しく頼みを聞きいれたとして、用済みになれば、どうせ殺すんだろ」



 これにも、イロはあっさりと頷いた。

それを見たエルマの顔に、はっきりと絶望が広がるのを、メオラは見た。


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