Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
ラグはエルマの視線に微笑みを返して、背負っていた荷から一本の筒を取り出した。
それは、シュタインを出る前に、エルマが言ってラシェルに用意させたものだった。
「ここに、シュタインからの親書がある。ここにいるのは、――おまえたちがさっき矢を射たのは、シュタインから和平を結びに来た正式な使者だ」
しん、と、場が静まり返る。
兵たちの顔が引きつっているのを見て、ラグは実に楽しそうに笑う。
「あ、そういえばさっき俺、おまえたちの射た矢で腕を怪我したなぁ。殿下に報告しようかなぁ」
普段は見せないラグの黒々しい笑みに、エルマの顔まで引きつった。
だが、完全に戦意喪失した兵たちと違い、サリアナは冷静だった。
「そのシュタインからの国使に、今現在わたくしは矢を向けられているが、これはどう説明するおつもりか?」
もっともな言い分だ。しかし、エルマの方が一枚上手だった。
「勘違い召されますな、サリアナ王母殿下。わたしは国使ではありません」
エルマが言った。