Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
礼儀正しく膝をつくエルマに、ルドリアは小さな声で「やめて」と言った。
「そんな他人行儀な礼はやめてちょうだい? せっかく妹に会えたんですもの。姉として接してほしいわ」
ほのかな笑みを浮かべて言うルドリアに、エルマは安心したように微笑んだ。
「それは、助かります。わたしも恭しい礼は肩が凝りますので」
エルマが立ち上がると、ディネロが「それで、」と、話を切り出した。
「どうするつもりなんだ、エルマ。何か案があるのか」
エルマは「はい」と返事をして、不安げな顔のディネロに向き合う。
ディネロが言っているのは、先ほどエルマがサリアナに切った啖呵のことだ。
――今起きている暴動を一兵も動かさずに鎮め、婚姻によらない和平条約を結んで見せ、シュタイン・ルイーネ両国に和平をもたらす。
そんなことが、今この状況では不可能なのではないか、とディネロは思っているのだ。
つまり、ルドリア姫ではないと知れてしまったエルマに――力なき一介の流民であるエルマに、今の状況を変えられるはずがないと。