Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「わたくしには、好いた人がいます。その方と一緒になりたいがために姫である責任から逃れ、何の責もないあなたに背負わせてしまった。
わたくしは、その償いをしなければなりません」
ディネロは驚いたようにまじまじとルドリアを見つめ、やがてその目に強い光が宿るのを、エルマは見た。
(覚悟ができたな)
ディネロの視線を、エルマは真っ向から見返す。
「ルドリアがそう言うのであれば、私が決意しないわけにもいくまい。――よかろう。私も、エルマに従おう」
「ありがとうございます、兄上、姉上」
言って、エルマは心からの礼をする。
この二人の協力を得られたのならば、あとは――エルマの弁舌と、運次第だ。
決行は翌朝。
エルマとシュタインの嘘が招いた暴動を、重ねた嘘で塗りつぶしてみせる。
エルマは斜め後ろに控えたラグを振り返り、小さく頷く。
そしてディネロとルドリアに向き直り、薄く笑って言った。
「それでは、まずはドレスを貸していただけますか?」